vol.15「遠い記憶」高橋克彦
vol.15で上演した作品を写真で振り返ります。
2作品目は高橋克彦さんの「遠い記憶」。こちらはvol.10が初演でした。
今回、残念ながらけんちゃん(入澤建)が降板することになり、それに伴い代役を立てて予定通りの作品を上演するか、作品自体を変えるか、という判断はかなり難しく、演出(菊池敏弘)とずいぶん話をしました。
しかし演出としては、上演予定だった米澤穂信さんの「夜警」は、けんちゃんありきで作ってきたため、他の人でやるのは考えられない、という気持ちが強かったようです。
主宰(松井みどり)としても同じ思いでしたし、この「遠い記憶」ならできるのではないか、という勝算があったので、公演としてはとても珍しいことですが、公演2週間前に演目を変更する、という決断をしました。
理由の大きな部分は、この人、つっちー(土橋建太)の存在です。
Mido Laboはvol.6から連続して参加してくれていて、演出やその他の面で演出(菊池敏弘)も意見を求めることが多い人。Mido Laboの参謀みたいな位置にいてくれる人です。この人がメインを読んでくれるなら、大丈夫だろうと思ったというわけです。
「遠い記憶」は主人公である歴史小説家の「私」が子供の頃過ごした盛岡で、失われた記憶を少しずつ取り戻していく…というサスペンス。この人の読みがとてもフィットする作品です。
その「私」が盛岡で入った割烹の女主人・世里子。この役は私(松井みどり)が演じました。
今回は、初演の時には言われなかった「怖かった…」という感想を、たくさんの方からいただきました。
怖さに関していうと、初演の方が意識していたような気がします。でもそう思っている時はそんなに怖さが出ず、意識しなかった方がそう思っていただける…不思議なものですね。
「私」の母を演じた、たーきぃ(石上貴子)。
「ささのは さらさら」のお母さんとはまた違う母を演じてくれました。何か重いものを抱えながら生きている…難しい役どころへのチャレンジ!持ち味の色気のある声も作品に合っていました。
また今回はとにかく「ラストシーンが怖かった…」と言ってくださるお客さまが多かったです。研究熱心で、いつも自己練習を欠かさない真面目な人です。
雑誌編集者・石井哲夫を演じた、なおくん(中西南央)。
「ささのは さらさら」の時の小学生・カズキとは全く違う表情を見せてくれました。お客さまの中には、カズキと石井が同じ人だと気づかず「あれ、両方やったんですか?」とびっくりされるお客さまも。
そして、たぶん「遠い記憶」をやることになって、一番大変だったのがこの人。なぜって、盛岡の観光案内みたいなセリフがずーっと続くんですよ。歴史を説明する硬めのセリフのオンパレードだったのに、2週間で必死に覚えてきてくれました。
また短い休憩時間の間に髪をセットして、暑いのにセーターを着て…いろいろがんばってくれました!
そして、タクシー運転手役のコウちゃん(一戸康太郎)。
今年2月の図書館公演で、初めてMido Laboに参加してくれました。初参加なのにいきなり役が変更になる、というアクシデントにもめげず、安定した演技を見せてくれました。
盛岡のタクシー運転手、ということで、原作では少しなまりが書いてあるくらいなのですが、コウちゃんは東北出身の友人に読んでもらった方言を完全にコピーして、「あの人は盛岡の人?」と東北出身のお客さまに言われるくらい、自分のものにしてくれました。研究熱心で真面目な人です。
カメラマン・有賀役の演出(菊池敏弘)。
出番としては短いのですが、インパクトがありました。見たものをそのまま体で演じるのが得意な人なので、こういう動きもとてもきれいです。
千秋楽前、「千秋楽だからって特別なことはしないように」と言っていたにもかかわらず、自分はそれまでとちょっとセリフを変えていたような…(^^;;
冒頭のシーン。ここからすでに不穏な雰囲気を感じたお客さまもいらしたようで、「いきなり血の匂いを感じました」という感想もありました。
そして、これが誰なのか?ということも、よく聞かれました。話の中での意味も、実際に演じていた人についても。
話の中での意味としては、特に決まってはいないのですよ。石井が見た「雨の日に羅漢に手を合わせていたばあさん」かもしれないし、誰にも言えない重いものを抱えて長い時間生きてきた人の象徴かも知れないし、もちろん「私」の母かもしれない…見る人によっていろいろに思える演出って、豊かだと思います。
誰が演じていたかというと…はなえちゃん(百鳥花笑)です!
「ささのは さらさら」の時の高校生・ミチコとは全く違う体の使い方で、見事におばあさんを演じてくれました。
このおばあさんは特に原作に出てくるわけではなく、この作品に深みを与えるため演出が考えだした存在です。物語の随所に登場しました。
最初は生れた土地・盛岡に取材旅行に来て、どんどん記憶を思い出していくことに楽しさを感じていた「私」。
地元の割烹の女将・世里子と出会い、「私」が生まれた家を一緒に探すことになります。
家の近くにあった羅漢公演を訪ね、ふたりで話しているうちに、ついに世里子の真意がわかってきます。
実はふたりは幼馴染み。小さいころは一緒に遊ぶほど仲が良かったのです。
タクシーで、世里子が知っていた「私」の生家を直接訪ねることに。
ここでのタクシー運転手は、もはや普通の運転手ではありません。どこに連れて行かれるのか…。
「は~い」という返事には演出のこだわりがあり、コウちゃんはかなり研究してくれました。最終的には、演出のイメージピッタリに!
ついに生家に到着。懐かしさに感動する「私」。
ここでもどんどん記憶を思い出していきます。
そしてついに、世里子が昔、好きだった女の子だったことを思い出す「私」。
甘酸っぱい気持になったのも束の間、衝撃の事実を世里子から告げられるのでした…。
ついに自分が封印していた記憶をすべて思い出す「私」。
記憶をなくしていたのは、自分の意思でだったのです!
そして衝撃のラストシーン!
…なのですが、なんと写真には残っていませんでした!
暗いシーンなので、写真だと撮れなかったのかもしれませんね。この作品はミステリーなので、ぜひ原作を読んでみてください!
2週間でキャスト陣、それぞれがんばってくれました。結果として、そんなことを感じさせない、素晴らしい作品になったのではないかと思います。
高橋克彦さんは、この作品のラスト1行を書くために「遠い記憶」を書き上げた、と話してらっしゃいました。
その衝撃、楽しんでいただけましたか?