top of page

vol.12「うたかた」


vol.12作品振り返り。今日は「うたかた」です。

この作品は、今回のテーマは植物にしようと決めてから選んだ作品です。作品を選ぶ時は、もともとやりたいと思っている作品をどう組み合わせようかと考える場合と、先にテーマがあって、それに合う作品を選ぶ場合があるのですが、今回は後者でした。

この作品が収蔵されている浅田次郎さんの「見知らぬ妻へ」という文庫本を読んだ時、なんとも言えない気持ちになりました。短編集なのですが、主人公がみな、ある種の生きづらさを感じている人たちで、読後感が…静かな感動はするのですが、いろいろなことがすっきり解決する、という感じではないのです。でも、彼らの選んだ自分の人生に対する誇りのようなものには共感し、とても心動かされました。

フィクションではありますが、ある意味、残酷な現実と真正面から向き合った作品だからではないかと思います。

この話の主人公の房子さんも、最終的に餓死という衝撃的な道を選びます。そのことに対して、私は「かわいそう」とは思ってほしくなかった。自分できちんと判断して、そういう道を選択した房子さんを尊重し、言葉は変ですが、応援したいなというような気持ちすら持って稽古に臨んでいました。

演出としては、まず冒頭に出てくる二人の刑事のうち、若い刑事に地の文を読んでもらったことが、大きなポイントだったと思います。

先輩刑事に専従でやれ、と言われ、最初は「うーん」と思いながらこの話に関わっていく若い刑事ですが、房子の人生に触れるうちに、彼女に少しずつ寄り添って話を進めます。そこがとても自然に流れたんじゃないかなと思っています。

シブい係長を演じてくれたちみちおさん(竹内道郎)。最初はもっとポップな感じの係長だったのですが、演出(菊池敏弘)の話を聞いて、ハードボイルドな部分を加えてくれました。毎回、間やテンポが細かく違うのは、さすがミュージシャン!

お忙しくて、なかなか稽古には出られませんでしたが、来ていただいた時には必ず前回よりバージョンアップしてました。同じお店で働いているキンくん(金純樹)とよく稽古してくれて、渋みのある係長を演じてくださいました。

そのキンくん。今回は刑事として、初めてこれだけの量の地の文を読んでくれました。Mido Laboではスタッフをやってもらうことが多かったのですが、今回はがっつり演者としての参加でした。

彼の起用方法については、演出もいろいろ考えていましたが、結果的には房子に寄り添い、同じものを見て、その人生を追体験するような、優しい刑事を演じてくれました。

team GREENの方の刑事を演じてくれた、サノヨー(佐野陽一)。

他の舞台との兼ね合いで稽古日数が大幅に少なかったにもかかわらず、作品の雰囲気を最大限に汲み取った読みをしてくれました。

重厚で安定感のある読みは、刑事という職業を感じさせ、一方で繊細に房子を気遣う部分もあるというナビゲーター役を見事にこなしてくれました。

房子の夫役のつっちー(土橋建太)。

やっぱり夫役は、この人しかいなかったなぁと思います。優しく実直、という古き良き時代の「お父さん」を演じてくれました。

家族と一緒にいる時と、最後に房子を迎えに来るところの雰囲気も微妙に違っていて、そういう細かい演じ分けに、本当に助けられました。

物語の最初の方に登場する秋田(入澤建)。

安定したスタートをアシストしてくれました。若い編集者だけど、休みの日には老人介護のボランティアをしている、という役柄。

「こんな人いないですよね」と言いながら、誠実に演じてくれました。年配の方々には「こんな孫が欲しいわね」と、大人気でした。

房子の息子・秀樹役のゲンゲン(斉藤厳)と娘・美智子役のターキー(石上貴子)。

回想の中で、房子のかわいい子どもたちを演じてくれました。「お母さん♡」と話しかけるゲンゲン、本当にかわいかったです!

team PINKでは、美智子は私(松井みどり)が演じました。

このシーン。ゲンゲンの机で勉強するシーンのマイムがうますぎる、と演出に絶賛されていました。

そして、何と言っても房子役のターキー。

本当に、演技初挑戦とは思えない、しっとりとした房子を演じてくれました。そもそも房子さんって、ターキーのようなタイプなんだろうなと思います。とても説得力がありました。

この人はとにかく研究熱心。毎回稽古を動画に撮って、次の稽古までに練習してきてくれました。最初は動きと読みの連動に戸惑っていたけれど、慣れてきてからは、放送関係者独特の集中力と強さを十分に発揮してくれました。

そして、同じく房子役の私。

最初にも言いましたが、とにかく房子さんの人生を忠実に送ろうと思って演じました。やっぱり自分のやり方でやってしまいたくなるので、できていないところもたくさんあると思いますが、しっかりした軸を持って自らの人生を全うした房子さんを、かわいそうな人と思ってほしくない…その一心だったような気がします。

あと演出としては、このお話が現在と、ちょっと前の現在と、過去、という3つの次元を行き来する…というファンタジーなので、その場面の切り替えに頭を悩ませました。

演出が2月の頭に「演出をイチから考え直したい」と言い出した時にはどうなることかと思いましたが、刑事と房子で1冊の本を受け渡す…という演出に行きついた時、台本が房子の人生そのものとなりました。

台本をやり取りするシーンは音響、照明と相まって、とても幻想的で、美しい場面になりました。

このラストシーンもきれいでしたね…。音響のミサキちゃん(金川美咲)と照明初挑戦のヨネックス(米本千晴)のコンビもぴったりで、本当に美しいラストシーンでした。

台本のカバーがシブいピンク色だったのは、夕焼けに照らされた桜が房子のイメージだったからです。ちょうどフライヤーのような色ですね。それも、シーンにフィットしていたと思います。

最終的には房子が本当に大切だと思っていたものを、ご来場いただいたお客さまもしっかりわかってくださり、共感してくださいました。ありがとうございました。

この作品はひとつめの「サボテンの花」とは全く違う、しっとりとした質感の舞台に仕上がりました。良いペアだったと思います。

「サボテンの花」の竜舌欄は、「うたかた」の桜は、どんな気持ちで権藤教頭を、子どもたちを、房子を見守っていたんでしょうね。そんなところにも思いを馳せる、vol.12「優しい植物」でした。

次回は9月の始めくらいにvol.13を開催できればと思っております。もうすでに、次回公演へ向けて話し合いは進んでいます。こちらのブログでは、随時、準備状況をお伝えしていきますので、どうぞまたご覧ください。

皆さま、本当にありがとうございました!

​過去の公演
最新記事
アーカイブ
タグから検索
ソーシャルメディア
  • Facebook Basic Square
  • Twitter Basic Square
  • Google+ Basic Square
bottom of page